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井上 迅

百年前の昨日1922年6月16日 井上正子日記

今宵は愛する友の祥月命日の逮夜である。


1922年(大正11)6月16日


六月十六日 金曜日 晴 起床六時 就眠十時

今宵は愛する友の祥月命日の逮夜である。

私はじっと目をつぶって、又新たなる悲しみに胸のせまるのをこらえてるのであった。尊い人間一人を失った、忘れ様としても忘れられない日なのである。

清い生涯に美しくも終わった友は、清らかな世界に生まれ変わってらっしゃるに違いない。そして友がこの現世にみにくいみにくいと常に叫んでいたあの人の苦しみもない、尊い世界に幸福に暮らしてるに違いない。

けれど、正子はそうは云ってるもののやっぱり淋しい。もっと生きてて欲しかった。

彼の人は私の唯一の友だった。私一人を信じ、すべてを私に求めていた美しい友であった。あの人は病の床の中に看護婦に〝もう一度私に会いたい〟と始終云ってられたそうである。私はそれをあの看護婦に聞かされた時、たまらない気がしたのだった。

ああ、けれどもう一年は経ってしまった……

友よ安らかであれ……

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